「青い炎」 貴志祐介 感想
- 31 5月, 2013
<『青い炎』 貴志 祐介>
主人公が望んだ家族の幸せ、自分の幸せは、彼の手には決して届かないところにあったのだろうか。やるせない、悲しい気持ちが強く強く残りました。
『青い炎』のように犯人側の視点で描かれ、犯行内容を読者に分かるようにして展開されつつ、徐々に追い詰められていくパターンを倒叙ミステリというんですね。あとがきの解説で初めて知りました。分かりやすく言えば、古畑任三郎や刑事コロンボ(テレビドラマですけど)などが代表的な例です。
鎌倉・江ノ島エリアに住む主人公の櫛森秀一は地元の高校に通う学生で、母と妹と暮らす3人家族でした。。。耐え難い苦痛、極めて許しがたい状況に陥った家族を救うために、決して実行してはならない計画を考え、実行への突き進みます。一度灯された青い炎は決して消えることなく、彼と彼の周りの人たちをゆっくりと焼き尽くしていく。。。などと駄文を書くのも変だな、やめよう。
秀一はただシンプルに家族の幸せだけを望んでいたわけで、正当な手段ではそれがもたらされることはなく、むしろ奪われて虐げられるだけの状況にあったんですよね。
もしも自分が同じ状況下に置かれたときのことを考えると、気が狂ってしまわないかと思います。その苦悩がいかほどのものか、是非読んで推し量ってほしいところです。
しかし大罪を犯すことも、それを隠すためにさらに罪を重ねることは、たとえ彼にとって代え難い大切なものを守るためとはいえ、決して許されないことです。読者は彼の立場と心情への同情と、傍観者として犯罪者に対する反感を同時に感じて、それぞれの気持ちの整理をつけることを要求されます。さすが貴志祐介です。
作品の読み味や展開は「悪の経典」に通じるものがありますが、あれは徹底したサイコパスが徹底して殺人を繰り返したのに対して、どこにでもいる少年が決して望まぬことに手を染めてしまうことに、強いやるせなさを感じるのです。これこそがただの倒叙ミステリとはちょっと違う、この作品の魅力ではないでしょうか。
次の貴志祐介作品はどれを読もうか、覚悟して探してみます!