「イノセント・ゲリラの祝祭」 海堂尊 感想

  • 11 6月, 2013


<『イノセント・ゲリラの祝祭 (上・下) 海堂尊

またまた”チーム・バチスタ”シリーズの続編です。やっぱり大好きです。今回は主だった事件や事故も起きませんが、AI(オートプシー・イメージング)をめぐって、激しい論戦・舌戦が霞ヶ関で繰り広げられます。


この辺りまで読み進めると、シリーズ全体における作者の意図というものが分かります。そうです。現代の医療行政や医学界に対しての強い改善提案ですね。ベースにあるのは日本の解剖率の低さが先進国の中でも極めて低く、都道府県によっては1%台という素人目に見ても異常な状態です。(wikipedia参照)お金や人手の問題があるのは理解しますが、死因が不明瞭な遺体の殆どがろくに調べられもせず、心不全などで処理されるのを知ったときは結構ショックでした。。。どれだけの犯罪が見逃されていることか。。。これが現実なのか。。。

今回は田口公平(東城大学医学部付属病院神経内科学教室講師、不定愁訴外来[通称『愚痴外来』]担当医)が、ひょんなことから厚生労働省の会議メンバーとなってしまい(どういう経緯でこうなったか、ファンであれば分かりますよねw)、AI推進派として否応無く泥仕合に巻き込まれていきます。


この作品でAI反対派として登場するは法医学や解剖関係者で、自分たちの領域を守り抜きたい守旧派たちがいます。また検討会自体をうやむやに終わらせてしまいたい厚生労働省の幹部なども登場します。大変分かりやすく描かれているので、彼らの厚顔無恥っぷりが際立っています。現実の世界は全員がこういう人たちばかりではないにしろ、結果的に同じような状況になっていることを考えると、これまた残念です。せめて小説の中だけでも覆って欲しいと思う気持ちが、次のページをめくる手を動かしていきます。

今回登場する人物で今後のシリーズでも重要な役割を持つのが、彦根新吾(病理医及び房総救命救急センター診断課)です。今回この男のやることなすことがカッコよすぎ!まず会議への登場の仕方からして「してやったり!」という感じで痛快です。続いて自分たちのことばかりを考えて全てを否定する連中をバッタバッタと論破していきます。三国志で諸葛亮孔明が呉に乗り込み、降伏ばかりを主張する文官を片っ端からブチのめす(=あくまで話合いです)シーンが目に浮かびます。さしずめ田口は魯粛ってとこでしょうかw

彦根があまりに鮮やかに、かつ大それたことを主張していたのも、大きく言って小さいこと(←本当の狙い)を認めさせるためであって、その辺のバランスも忘れてはいませんね。あくまでフィクションなのでちょっと展開がうますぎな感じもしますが。。。

今回は会議室の中の戦争であり、サスペンスやミステリーといった要素はありませんが、シリーズ全体を支えるとても重要な役割を持っています。

この作品以降に司法や警察などから強い反抗が始まります。まさに物語の中盤を飾るターニングポイントのような位置付けですね。


Comments are closed.