「影法師」 百田尚樹 感想 あらずじ

  • 23 8月, 2013

武士の世界の過酷なまでの厳しさと、完全なまでの身分制度の中で、一人の武士が己の生涯を回想します。その中でかけがえの無い友と自分に起きた全てのことが明らかになっていきます。悲しくも切ない、それでいて心にしみる感動の作品でした!

初めて読む百田尚樹の作品に、これを選べた幸運を感謝したいです。心が締め付けられるほどとても切なく、目頭が熱くなるのを押さえられないほど胸を打たれた物語です!

舞台は長く戦の無くなった江戸時代にある茅島藩という小さな国です。武士の中で一番身分の低い下士の家に生まれた戸田勘一(後の名倉彰蔵は往来で中士に父を切り殺され、母と妹の三人で辛く苦しい幼年時代を過ごします。藩校に通うことになった勘一は、父が殺された際に手助けをしてくれた磯貝家で出会った磯貝彦四郎と再会します。二人は刎頚の契りを交わし、お互いの夢や将来について語り、強い絆で結ばれていきます。

誰もが羨むほどの才能に満ち溢れた彦四郎と、人一倍努力を重ねる勘一は、それぞれの道で少しずつ実績を残していくのです。しかし”ある出来事”を境に彦四郎は落ちぶれ、勘一は思いがけず栄達していきます。やがて筆頭国家老までになった名倉彰蔵戸田勘一は、彦四郎が不遇のまま病で亡くなっていたことを知り、深い悲しみとともに”あの時なぜ”という疑念が残ります。そして過去への糸をたぐっていったその先に、ある大きな真実を知ることになるのです。。。

とても読みやすく少しでも早く次が読みたくなる作品でした。その時代の背景や社会構造、環境といったものが、全く説明的でもないのにすんなりと理解できたところに、大変旨い読ませ方をするものだと感心しました。徐々に真実へとたどり着く勘一のその目と耳は、正に読者の目であり耳でした。人生とはなんと残酷で後悔の繰り返しなのか、生涯の友との友情はなんと素晴らしいものなのかを、改めて胸に刻みました。

私も思います。彦四郎は素晴らしい男だった。でもあれだけの人格者であふれんばかりの才能を持ちながら、なぜあのような生き方を選んだのか?なぜ生涯を犠牲にしてまで友に報いたのか?それはやはり万作のこと、勘一の決意のことがあったからでしょうか。。。勘一と同じように大きな声で彦四郎の名を呼んでみたい気持ちで一杯です。ただ間違いないは勘一を支え、守ることで茅島藩とその民は幸せをつかむ力を得ることができたのだと。彼の献身は決して無駄にはならなかったということです。磯貝彦四郎という男の大きさにただただ敬服します。

最近は「父と子」というテーマが自分の中で主流でしたが、「友」というテーマを持った作品で新しいものに出会えました。この出会いを大切にして、また新しい幸運にめぐり合えることを楽しみにしたいと思います。


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